足湯と君は居場所【BLピュア】
 いつものように足を湯に入れ、読みかけの小説を開いた。

 小説を買う時は本屋の中をさまよい、目に入ったものを選んで読む感覚派。今読んでいる小説は芸能人が書いた純文学だ。リアルな自分には全く縁のない恋愛モノ。結末はすでに知っている。なぜならいつも最後のページから読むから。

 カップルが遠距離になるからって別れかけたが、最後には夢を追いかける女のあとを、仕事を辞めた男がついて行き結婚するという内容の物語。

 俺より十歳年が上の兄、紫音はこの今読んでいる小説のように、夢を追いかける女のあとをついていき……はしなかった。

 兄貴と元カノは結婚しないまま一緒に暮らしていて、ふたりの間に咲良が生まれた。

 少し経つと「私は女優になる夢を追いかけるの!」と、兄貴と咲良を置いて元カノは都会へ旅立った。

 それから兄貴は咲良とアパートでふたり暮らしをしていたけれど、ひとりで咲良を育てるのは大変だと言い、実家に戻ってきた。

 そして今日は、咲良と一緒に駄菓子屋へ行った。行ったおかげで、良い出会いが――。

 駄菓子屋の風景はぼんやりと、店にいた女の子、優香ちゃんの顔ははっきりと頭の中に浮かんでくる。目がクリクリで可愛さもある美人だったな。

 本当にタイプだった。
 思い出すだけで抱きしめたくなる。

 あの子のことを考えていると、あっという間に時間が過ぎていく。

――もう一度、会いたいな。

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