足湯と君は居場所【BLピュア】
 帰り道。

 優香ちゃんを家まで送ったあとも、もっと一緒にいたかった。おばあさんは先に家に入っていく。

「今日はありがとう、またね」
「優香ちゃん……」

 優香ちゃんが家に入る直前に、呼び止めてみたけれど。特に何も話すことは無いから「じゃあ、また」と、彼女に背を向けた。

「あ、そうだ! ちょっと、玄関で待ってて?」と後ろから声がして再び振り向いた。玄関に入って待っている間、白くて小さな犬が足元に来て、クンクンと俺の足の匂いを嗅ぎだす。

 この犬、優香ちゃんみたいに白くて顔立ちがはっきりしていて、可愛いな。

 犬の頭を撫でていると、ピンクのリボンで入口が結ばれている、水色の小さな袋を持って優香ちゃんは戻ってきた。

「あのね、これ、プレゼント。ひょう花に連れていってくれたお礼」
「お礼なんて……」
「こういうの、迷惑だったかな? ごめんね」

 うつむく優香ちゃん。

「……いや、ありがとう」

 優香ちゃんからのプレゼント、迷惑なわけがない。嬉しすぎる。

「本当にありがとう。じゃあまた」
「うん、こっちこそありがとう! ばいばい」

「あ、あの優香ちゃん! また一緒にひょう花に行きたい」
「うん」

 優香ちゃんは笑顔でうなずいてくれた。
 
「じゃ、ばいばい」
「帰り道、気をつけてね!」

 また一緒に足湯入れることと、プレゼントの嬉しさで、自分の笑顔が鳴り止まない。

 帰りにプレゼントの中を覗くと、チーズ味のスナック菓子ふたつとひんやりする飴、咲良の好きなグミが入っていた。

 このスナック菓子の小袋は、こないだ食品表示の欄を店で読んでたやつだ。

 ひとりになると、ひょう花で過ごした時間を思い出す。優香ちゃんは足湯を気に入ってくれたみたいだ。誘ってみてよかった。人の気持ちとか、どうでもいいやと思うけれど、優香ちゃんに関してのことだけは些細なことでも気になる。

 今日もまた、優香ちゃんが俺の心の奥に入ってくる。日に日に奥へ。

 優香ちゃんと駄菓子屋で初めて出会った時。その瞬間から、優香ちゃんが頭の中から離れなくなった。こうしてどんどん優香ちゃんを知るほど俺は、優香ちゃんのことを――。

 その気持ちは、本を読んでも得られない。
 その気持ちは、優香ちゃんにしか感じない。

 特別な感情だ。
 これは多分、恋だろう。

――生まれて初めての恋。

 見上げると、空の星は満開。
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