足湯と君は居場所【BLピュア】
「やっぱり赤井、可愛いな。髪もさらさらで、綺麗」
「あ、ありがと……」
「地毛の色も金色っぽくて似合ってるし……でも中学の時は見た目で決めつけられて、不良とか呼ばれてたよな?」
「うん。その時の僕のこと、そこまで覚えてたの?」
「本当に可愛いって思ってたから。その時はまだ赤井に恋してるわけじゃなかったけどね。赤井、学校に来なくなったから、大丈夫なのか?って、気にはなってた……」

 あの時、気にしてくれていた人なんていたんだ……。中学校では最終的に、自分は透明人間になっていたような気がしていた。

 ん? 今、その時はまだ僕に恋してるわけじゃなかったって言った? 

〝その時はまだ〟?

「ねぇ、赤井の手、太陽にかざしてみて?」
「今?」
「うん」


 外は寒いのに、黄金寺が窓を開けだした。

 言われた通りにかざしてみる。
 あれ? ほんのり赤みたいなピンクのような、曖昧な色が見える。横では黄金寺もかざしている。

「俺なんも色出ないわ。赤井は色がちょっと出てたな?」

 黄金寺は僕の手首をぎゅっと掴んできた。

「ちょ、痛いよ黄金寺……」
「なんで赤井だけ出てるんだよ……まだ俺の年齢が達してないからなのか……それとも運命の相手じゃないのか?」

 黄金寺の瞳が揺れている。

 もっと強く手首を握られて「痛いよ」って言っているのに離してくれない。声も尖っている。いつもと違う。怖い――。

 そのまま黄金寺の顔が近づいてきて……キスされた。

 うわ、何これ。どうなってるの?
 何が起きたの?

「いや、だ……」

 痛くて怖くて、わけが分からなくて涙が出てきた。

 僕はカーテンの密室空間から逃げて、目的地は一切ないけど廊下を走った。

 とりあえずトイレの中に隠れた。黄金寺は気づかないでトイレの前を通り過ぎていく。名前を呼ばれたけれど返事は出来なかった。

 何? 今の……。

 感触が忘れられない。僕の初めてのキス……相手は、まさかの黄金寺?

 そっと人差し指で自分の唇をなぞる。
 
 相手は黄金寺だったけど。
 今、頭の中に思い浮かんでいるのは黄金寺ではない、別の人――。

 どうしてなのか分からないけれど、初めてのキスは今、頭の中に浮かんできた人とがよかったなという思いがよぎった。

 
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