足湯と君は居場所【BLピュア】
「赤井、もしかして、受験の日にゆきちゃん抱っこして、泣きそうになってた?」

 話しかけると赤井と目が合う。
 泣きすぎて目が腫れ、疲れた表情をしていた。

「うん、ゆきちゃんがひとりぼっちでいたから……」

 あの日に見たのは、赤井だったのか。
 あの時に見た赤井は髪の毛が長かったし、輝きすぎていたから赤井だって気がつかなかった。

「だってね、この子、寒い中ひとりで捨てられてたんだよ。こんなに小さくてか弱そうなのに……ひとりで寒い中いたんだよ?」

 再び赤井は静かに泣き出した。

 ゆきちゃんがもしも見つからなかったら、赤井の心はどうなっていたんだろうか。ゆきちゃんが見つかって、本当によかった。赤井の心が無事で、壊れなくて……本当によかった。

 赤井をゆきちゃんごと優しく抱きしめた。赤井の全部を抱きしめると、赤井はイメージよりも細くて小さいことを知る。そして心は、繊細。

 赤井を、人生全てかけてでも守りたい。  
 赤井と離れたくない――。

 誰かに対して強くそう思えたのは初めてだった。

「赤井、学校では冷たくしてごめんな」
「ううん、僕こそ、騙してごめん。騙していたけれど、一緒に足湯にいる時は本当に楽しくて……」
「うん」
「僕、友達とそんなふうに過ごすことがなかったから、高瀬と一緒にいる時は本当に新鮮で」
「うん」
「高瀬が新しい世界を教えてくれて、一緒に足湯にいる時は本当に楽しくて、僕、友達とそんなふうに過ごす……」
「赤井、同じ言葉繰り返してる」

 取り乱した赤井を愛おしく感じる。

「赤井……」
「何?」

「学校での不器用な赤井も、優しくて可愛い赤井も、女装している赤井も……。どれも本当の赤井で、どの赤井も魅力があって良くて……どの赤井も俺にとっては大切な存在で……」

 ひとつひとつ丁寧に、言葉を確認しながら赤井に気持ちを伝えた。
 赤井は声を出して、もっと泣き出した。
 ぎゅっと力を込めて赤井を抱きしめ、勇気をだして赤井に気持ちを伝えた。

「俺、全部の赤井が、好きだから――」

 俺の気持ちを伝えると、赤井は頭を俺の胸元に寄せてきた。そして、いちばん欲しかった言葉をくれた。

「……僕も、高瀬のことが好きだよ」。
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