吸血王子と笑わない婚約者
婚約者。フィアンセ。許嫁。(つがい)
婚姻の約束を交わした恋人同士のこと。

恋人。
男女の深い仲同士のこと。カップル。


男女の、深い仲。


…。




なにそれ、きいてない。




「こんやくしゃ」

「イエス」

「あなたと、わたし?」

「オフコース」

「…???????」

「あぁっ!?!?杏サンの頭からケムリが!!!」


それっていつの話だとか、無かったことにはできないかとか、
私が目の前にいる人外さんの婚約者、消された記憶、
なにそれこわいってしか考えられなかったり、

なんかもういきなり色々と考えなきゃいけないことが多すぎて。
なんて口にしたらいいかわからなくて、固まってしまう。


「…って、いきなり婚約者だとか、記憶も無いのにそんな事言われても困りマスよねえ」


私の様子を察してか、彼は少し申し訳なさそうに笑う。


「かと言ってこのまま貴女を諦めて帰る訳にも…そうデスねぇ。うん、うん。ではこうしマショう!」


パチンッ!と指を鳴らすと、彼は私の前に跪いて、手を取り。

こう告げた。



「数年…イエ、たった一年で構いマセン。もう一度私を好きだと言わせてみせマス。それで駄目ならキッパリと貴女を諦めマショう。デスからどうか…。」

綺麗な紅い実のような瞳が、伏せた長いまつ毛の隙間からゆっくりと顔を覗かせて。
私の姿を徐々に捕えて映し出していく。

なんでだろう、はたから見たらとてもロマンチックな光景なのに。
これから起こる嫌な予感で、冷や汗が頬を伝う。



「貴女のお傍に置いていただけマセンか?この高等吸血鬼一族ブラッディハート家次期当主、ザカライアス•ブラッディハート…必ずや、貴女の心を取り戻してみせマス」




…。




「…むりです、帰って下さい」

「」



やっぱむりなものは、むりな私だった。

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