君の世界に触れさせて
 そうか、人は嬉しいときも泣きたくなるのか。


 夏川先輩はきっと、私の涙に気付いていただろうけど、なにも言ってこなかった。


 私の中で落ち着くまで、私たちはお互いになにも言わなかった。


 さっきまで耳を塞ぎたくなるような賑やかな声も、今は聞いていられる。


 私はゆっくりと深呼吸をする。


 ああ、今日の空は、こんなにも青かったのか。


 これはたしかに、クラスマッチ日和だ。


「……私にとって、世界は暗くて、しんどくて、灯りなんてない、地獄みたいなものでした。こんな地獄なら、いっそのこと消えてしまおうかとも思ったくらいに」


 小さく弱音をこぼしたことで、視界の端に見える先輩は、不安そうな目をしている。


 それでも、私のどんな言葉も流さずに真正面から受け止めてくれるそうで、私は話を続ける。


「そんなどん底にいたとき、先輩の写真に出会ったんです」


 夏川先輩の写真は、いつだって私の心を癒してくれた。


 出会ったときが一番癒されたけど、目を閉じて思い出すだけでも、十分、満たされる。


 それくらい、私にとって夏川先輩の写真の効果は、絶大だ。
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