君の世界に触れさせて
「私は、先輩の世界が羨ましかった。どうしてこんなにも明るくて、楽しそうなんだろう。私の世界は暗くてしんどいのに。いいな、いいな。私も、明るい世界に行きたい。入れてほしい」


 あのときは言語化せずにただ、一目惚れをしたと思っていた。


 だけど、少しずつその理由が見えてきて、言葉にすると、それはただの羨望でしかなかった。


 どうしようもなく重たい感情を認めたくなくて、私は“夏川栄治の写真が好きだ”と、綺麗な感情で誤魔化していたんだと思う。


「……夏川先輩が撮った、柚木先輩の写真を見て、私はそんなことを思ったんです」


 先輩にどう思われるかを考えると、急に怖くなって、声が小さくなる。


「その明るい世界を写した人間が、あんなに暗い奴でがっかりした?」


 先輩から返ってきたのは、予想外の言葉だった。


 先輩の表情を見ると自嘲している。


 私はどうしてそんなことを言うのか疑問に思いながら、首を横に振る。


「過去になにかあったんだろうなって、なんとなく思っていたので……」
「うん、そうだろうなって思った」


 気付かれていたとは、思わなかった。


 驚く私を見て、夏川先輩は小さく笑う。
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