君の世界に触れさせて
「これ、夢莉のアカウントなんですけど。氷野咲楽よりフォロワーが少ないんです」


 藍田さんのフォロワー数は216。


 それよりも多いなんて、氷野はインフルエンサーにでもなるつもりなのか。


「で、どうしたら差が付けれるかなあって思ったとき、夏川センパイが撮った夢莉を見つけたんです」


 藍田さんの声のトーンはころころと変わり、楽しそうに話すけど、僕にはわからない話ばかりで、正直ついていけない。


 ゆえに、適当に相槌を打つことしかできなかったのだけど、藍田さんは僕が話を聞いているかどうかは、どうでもいいみたいだった。


「夢莉、よく自撮りして加工しまくって可愛く見せてるんですけど、夏川センパイが撮った夢莉なら、そんなことしなくても最高に可愛いじゃんって、思ったんですよ」


 古賀の話を聞いたからだろうか。


 これは、あまり嬉しい感想ではないと思ってしまった。


 藍田さんには僕が見えていないのか、どんどん話が進められる。


「夏川センパイの撮る夢莉を投稿していったら、絶対に氷野咲楽を越えられる。だから、センパイ。夢莉の専属カメラマンになってください」


 前の僕なら、相手を傷付けないように、空気を読んで、“正解”の言葉を選んだだろう。


 なんなら、僕の気持ちを押し殺して、引き受けた。
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