君の世界に触れさせて
 でも、今は違う。


 正直に伝えることの大切さを知っているし、なにより、古賀を撮りたいという思いが強いから、引き受けようと思わなかった。


「ごめんね。僕、そういうことはしていないんだ」


 必死に言葉を選んで断ると、さっきまで笑っていた藍田さんが、急に無表情になった。


「夏川センパイ、氷野咲楽と知り合いですよね。氷野咲楽には協力しておきながら、夢莉には協力しないって、不平等じゃないですか」


 勝手にそんな責め方をする、君のほうが理不尽だと思う。


 そんなことを思ったけど、心を落ち着かせて、言葉を飲み込む。


「SNSのことで氷野に協力をしたことは、一度もないよ」


 藍田さんは疑いの目を向けてくる。


 でも、これ以上の説明もできそうにない。


「アンタがそんなだから、フォロワーが増えないんじゃないの」


 困ったところで、厳しい声が聞こえてきた。


 声がしたほうを見ると、中庭に氷野がいる。


 氷野は泥だらけのバスケボールを真上に投げて遊んでいる。


 泥だらけになるだろうに、氷野がそんなことをしているのは、意外だった。


「氷野咲楽……聞いてたの」


 藍田さんは敵意丸出しで、氷野を睨む。


「聞いてたんじゃなくて、アンタの甘ったるい声が聞こえてきたの」


 だけど、氷野は一切気にしていないようだ。


 藍田さんのほうを見ることなく、ボールを投げ続ける。
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