君の世界に触れさせて
「アンタがお願いしてること、主張してることって、かなり自分勝手だよ。ただのわがまま。だから周りがついてこないし、フォロワーが減ってく」


 やはり、氷野の言葉は胸に刺さる。


 容赦のない言葉に、藍田さんは言い返せず、怒りを堪えている。


「夏川栄治も言ってあげなよ。アンタの作り笑いなんかより、依澄の笑顔が撮りたいって」


 氷野は僕を見て、悪い顔をしている。


 このタイミングで、僕に振ってほしくなかった。


「いや、僕は……」


 今にも喧嘩が起きてしまいそうな雰囲気で、僕は結局空気を読み、はっきりと言えなかった。


「……もういい」


 藍田さんは、拗ねた表情を残して、去っていった。


「……氷野だって、自分勝手だろ」


 ため息混じりに言うと、氷野はまた、ボールで遊び始めた。


「まあね」


 氷野はまったく僕のほうを見ようとしない。


 ボールを真剣に見る横顔には不思議な引力があって、僕はカメラを向ける。


 シャッター音に、氷野が反応する。


 ファインダー越しに、呆れた表情をする氷野と目が合った。


「私なんかより、依澄を撮ったら?」


 相変わらず、氷野の言葉にはトゲがある。


 さっきまで気にしていたことだからこそ、余計に刺さった。
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