君の世界に触れさせて
 母さんは席を立つ。


「遥哉、ゴールデンウィークには帰ってくるって」


 母さんはそれ以上は言わず、冷蔵庫からまだ残っていたザッハトルテを取り出す。


「栄治も食べる?」


 僕にそう聞いてくるということは、さっきのハル兄の話題は、ただの報告だったらしい。


「いや、遠慮しておく」


 僕は一方的に気まずさを感じて、二階に上がる。


 さすがに電気をつけなければ不便で、部屋の明かりをつける。


 散らかり放題な部屋がしっかりと目に映るが、そんなものはどうでもよく、僕はクローゼットに手を伸ばした。


 中には服の代わりに入れた、僕の大切なものたちが並べられている。


 じいちゃんから譲り受けたカメラに、僕が撮ってきた写真のアルバムや、データが詰まったノートパソコン。


 どれも大切だけど、一番はやっぱり、じいちゃんのカメラだ。


 僕がカメラに興味を持ったのは、じいちゃんがきっかけだった。

 じいちゃんはよく、僕たち家族を写真に収めていた。


 家族旅行で綺麗な景色を見ても、じいちゃんはそれを写真には撮らなかった。


 ばあちゃんも母さんも景色を撮っている中で、そんな二人にカメラを向けるじいちゃんを、昔の僕には変な人に見えた。
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