君の世界に触れさせて
「咲楽、私にメイクとか、服のこと教えてくれる?」


 まだ、咲楽の機嫌は直らない。


 相変わらず、咲楽のご機嫌取りは難しい。


「私、咲楽に教えてほしいな」


 すると、咲楽はストローから口を離した。


 なんとか成功したことに、私は安心する。


「依澄は笑顔が可愛いから、オシャレしなくてもいいよ」


 さすがに、その返答は予想していなかった。


「ていうか、好きって自覚したのに、まだ言わないなんて、依澄らしくない」


 流れるように暴露したから、思わず聞き逃すところだった。


 でも、柚木先輩に夏川先輩のタイプを聞いた時点で、柚木先輩も察していたのだろう。


 話を聞きながら、頷いている。


 咳払いをして、一旦恥ずかしさを誤魔化す。


「今はまだ、自分に自信がないから言わない。ちゃんと、夏川先輩の隣に立つ自信を持ってから、言いたいの」


 それは、私なりのプライドだった。


「そんなの待ってたら、誰かに取られちゃうよ。夏川栄治が欲しいって、本人に言ってる人、いたし」


 その内容と裏腹に、咲楽は呑気にストローで氷を押して遊んでいる。


「咲楽、それ、本当?」
「本当」
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