君の世界に触れさせて
 柚木先輩に言われて考えてみるけど、これといったものが思い浮かばない。


「夏川先輩は……私の光みたいな存在で。憧れだったはずなんですけど……夏川先輩のことを知っていくうちに、ただの憧れじゃなくなったというか……」


 咲楽は聞きたくないという表情で、柚木先輩は微笑ましく私を見ている。


「どこが、とか、わからないです。私は、夏川栄治という人が好きだと思ったんです」


 ちゃんと言葉にすると、夏川先輩に会いたくなってきた。


 会って、伝えたい。


 だけど、もう少しだけ、自信が欲しかった。


「あの、柚木先輩。咲楽も。簡単なものでいいので、メイクのやり方を教えてください」


 メイクで自信がつくのか、わからない。


 でも、咲楽がいつか言っていた。


『メイクは、私を強くするための手段だから』


 その言葉を信じたい。


「私はいくらでも協力するよ」


 柚木先輩は咲楽に視線を移す。


 咲楽はまた氷で遊んでいる。


 りんごジュースが減ったことで、氷がグラスに当たる音がした。


「……わかった」


 咲楽は仕方ないという顔をして、そう言ってくれた。


「ありがとう、咲楽」


 咲楽が承諾してくれたのが、自分でも思っているより嬉しかったみたいで、自然と笑顔がこぼれた。
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