君の世界に触れさせて
「ちょっと、ちゃんと見た目を整えようと思って。あ、お金は大丈夫。何個か咲楽に借りたし。それに先生たちに怒られないくらい、薄めにするから」


 怒られると思ってしまって、言い訳をしているように言った。


 そのせいか、お母さんは小さく口角を上げた。


「メイクするくらいで、怒らないよ。わからないことがあったら、なんでも聞きなさい。あと、遅刻しないようにね」


 そしてお母さんは、私の部屋の前を通り過ぎて行った。


 お母さんの優しさに少し泣きそうになったけど、両頬を軽く叩いて、気合いを入れる。


 まずは、下地。

 濃くしすぎないように、少しずつ塗るようにと書いてある。


 半分塗ってから、全然印象が違うことに気付く。


 ほんのわずかでも、こんなに変わるのか。


 これは咲楽がすっぴんはイヤだと言うのも、わかるかもしれない。


 下地を塗り終えると、次はアイシャドウ。

 何色も塗るとバレちゃうから、一色だけ。

 筆を使って、目の周りに色を乗せていく。


 それから、アイライン。

 咲楽が初心者向けで私に似合う色を選んで、プレゼントしてくれたもの。


 アイラインは難しくて、すぐには完成しなかったけど、いい感じに仕上がったと思う。
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