君の世界に触れさせて
『どうしてじいちゃんは、景色は撮らないの?』
『これからも遺る景色には、興味ないからね。それよりも、変化していく大切な人たちの表情を写したい』


 幼い僕には、言葉の内容は難しかったけど、ばあちゃんたちを優しい目で見つめるじいちゃんの横顔が印象的で、今でも覚えている。


 そして、その質問をきっかけに、じいちゃんは僕が写真に興味を持ったと思ったのか、カメラを触らせてくれるようになった。


 それでもやっぱり、綺麗な景色を撮ることのほうが、僕には魅力的に感じていた。


 じいちゃんの言っていたことを理解したのは、三年前にじいちゃんが死んだときだ。


『お父さんの写真、全然ないね』
『どれもこれもムスッとしちゃって……選ぶのが難しいわ』


 遺影を探しながら、母さんとばあちゃんがボヤいていた。


 僕はじいちゃんの優しい顔を知っているからこそ、もどかしかった。


『人との思い出は記憶にしか残らない。でも、人は忘れる生き物だ。だから、記録を残すんだ』


 僕は、じいちゃんの写真を撮っていなかった後悔と、もうじいちゃんに会えない悲しさで、しばらく泣くのを止められなかった。
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