君の世界に触れさせて
 だから、こんなことを今思うのは間違っているとわかっているけど、嬉しいと思わずにはいられなかった。


「違う。藍田は、自分を輝かせてくれる写真係がほしいだけ」


 あのときの会話を聞いていたから、氷野は力強く否定した。


 まさしく、氷野の言う通りだ。


「それで夏川先輩を選んだってことは、藍田さんも夏川先輩の写真が好きってことでしょ?」


 だけど、古賀は信じなかった。


 自分自身の状況と、藍田さんの状況が似ていると思っているのだろうか。


「多分ね、夏川先輩の写真が好きな人って、いっぱいいると思うんだ。みんな、先輩に言わないだけで。最初はモヤモヤしてた。なんで言わないの? そういうのは、伝えてあげようよって」


 古賀がそう思っているだろうという場面は、いくつかあった。


 花奈さんと話しているとき。篠崎さんたちと対峙したとき。


 素直に伝えられる古賀だから、そういうことには不満があったのだろう。


「でも、藍田さんが伝えているのを見て、私、嫌だなって……」
「夏川栄治は私のなのに!って?」


 氷野の声は少しだけ大きくなった。


 僕に聞かせるために言ったみたいだった。


「違っ……もう、咲楽、意地悪」


 僕も、そう思う。
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