君の世界に触れさせて
「慣れないメイクして、咲楽に髪を整えてもらったのに……勇気を武装したはずなのに……柚木先輩が言ってた通りだ……」


 古賀の声は小さくなり、聞こえなくなる。


 僕がしっかりと藍田さんの頼みを断れないことで、こんなにも古賀を苦しめていたなんて、思いもしなかった。


 氷野があの表情をするのも、当然だ。


 まずは、ちゃんと藍田さんと話をつけよう。


 これ以上、古賀を悲しませて、勘違いをさせたくない。


 そう思って、僕は静かにその場を離れる。


 そのまま、一階の廊下を進む。


 半年くらい前までは、この階にいたはずなのに、知らない人ばかりだからか、妙に緊張した。


 藍田さんに教えられたクラスに行くと、彼女は廊下側の前の席で、一人でスマホを触っている。


 誰も寄せ付けようとしない雰囲気で、声をかけてもいいのか、戸惑ってしまった。


「夏川センパイ」


 その戸惑っている間に藍田さんが顔を上げ、僕に気付いた。


 周りを攻撃してしまいそうな冷たさはなくなり、わずかに穏やかになる。


 僕を慕ってくれていることは、その雰囲気を見ればわかる。


 藍田さんは立ち上がり、僕のもとにやって来た。
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