君の世界に触れさせて
 僕は基本的に誰とでも接することができるタイプだと思っていたけど、どうやら、彼女に対してはそうではないらしい。


 僕はその勢いに圧倒されてしまって数歩後ずさったことで、僕たちは廊下に出る。


「夢莉に会いに来てくれたんですか? もしかして」
「ごめん、藍田さん」


 少し高い藍田さんの声を遮った。


 藍田さんが小さく首を傾げたことで、彼女は上目遣いになる。


「今日は改めて、断りに来たんだ」


 僕がそう言うと、静かに藍田さんの雰囲気が元に戻った。


 みっともなく恐ろしいと感じてしまう視線だ。


 氷野と似ている子だとは思っていたけど、これは氷野以上かもしれない。


 気に入らないものは壊してしまいそうな、そんな恐ろしさだ。


 このままでいるのは、きっと藍田さんにとってよくない。


 だけど、彼女には僕の声は届かない。


「……僕は、きっと藍田さんの希望に応えられないよ」
「そんなの、やってみないとわかんないじゃないですか」


 声に圧が込められる。


 やってみたら、納得してくれるのだろうか。


 もしそうなら引き受けようかと思ってしまうけど、そうすれば、また古賀を悲しませてしまう。


 大事にしたいものは、見失いたくない。
< 138 / 151 >

この作品をシェア

pagetop