君の世界に触れさせて
 それをきっかけに、ばあちゃんに頼んで、じいちゃんのカメラを譲ってもらい、僕はじいちゃんが残そうとしていたものを写すようになった。


 僕が出会ってきた人たちの喜怒哀楽を写真に収めていくのは、思い出を形にしているような気がして、楽しかった。


 その中でも笑顔が特段好きだったけど、もう、僕に自然な笑顔を向けてくれる人はいないだろう。


 僕は笑顔が好きで。

 みんなと笑えるように過ごしていくうちに、みんな、僕に自然な表情を見せてくれて。

 それを写真に残すと、僕の写真でまた、みんなが笑顔になる。


 その幸せな日常のサイクルは、半年前に壊れた。


 僕の写真のせいで、僕とハル兄は気まずくなってしまったのだ。


 カメラに手を伸ばすと、ハル兄の苦しそうな顔が脳裏によぎる。


 だから僕は、カメラに触れられなかった。


 今も、指先が震えている。


 もうしばらくは、写真とハル兄とは距離を置いたほうがよさそうだ。


 そんなことを思いながら、僕はクローゼットの扉を閉めた。
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