君の世界に触れさせて
 机には、蓋が閉められた弁当箱がある。


 佐伯が閉めてくれたらしい。


「どういうこと? てか、なんか疲れてない?」


 佐伯の質問に答えず、弁当箱を片付ける。


「昼、食べないのかよ」


 弁当箱だけでなく、机の中にあるものまでカバンに入れるから、佐伯は動揺した声を出す。


「早退する」
「はあ? おい、栄治。説明しろって」


 カバンを肩にかけたら、佐伯はそのカバンの紐を引っ張った。


「僕にしかできないことをするんだよ」


 佐伯は余計に混乱したみたいだけど、佐伯と話す時間はもったいなくて、僕は佐伯の手を離して、教室を出た。


 すれ違う人たちに不思議そうな視線を向けられながら、靴に履き替える。


「栄治、サボりか?」
「まあね」


 そうやって何人の生徒から声をかけられながら、校舎を離れていく。


 ふと、僕は振り返った。


 ほんの一ヶ月前にははじき出されたと思っていた場所が、また大事な場所に変わった。


 建物は何一つ変わっていないのに、僕の心が変わるだけで、こんなにも違うのか。


 これは全部、古賀がいてくれたから。


 古賀がいなかったら、僕は今でもどん底にいただろう。
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