君の世界に触れさせて
「夏川先輩に会ってくる」


 声を出して、自分が不機嫌であることを知る。


 そのせいか、咲楽は悪い顔をする。


「お? 文句言いに行っちゃう感じだ?」
「だって、直接聞きたいから」


 咲楽は一瞬固まって、それから優しく笑った。


「行ってらっしゃい」


 咲楽に見送られ、私はノートを持って教室を飛び出した。


 ほんの数週間通らなかっただけなのに、先輩のクラスへの道は懐かしく感じた。


 人が少ない廊下を走り、二年三組にたどり着く。


 ドアは開いていて、教室内が見える。


 何人かが勉強している中で、夏川先輩はうつ伏せになって寝ている。


 その姿を見て、入るのに躊躇った。


 でも、起こすのは悪いと思うけど、人が少ない今、話をしておきたかった。


 教室に入って、夏川先輩の前に立つ。


 夏川先輩が起きる気配はなかった。


「夏川先輩」


 私が呼ぶと、先輩は目を擦りながら体を起こす。


 まだ眠そうな瞳で、私を見つける。


「おはよう、古賀。今日はなんだか、いつもと雰囲気が違うね。可愛い」


 寝ぼけていることもあるのか、普段の夏川先輩からは想像できないことを、とてつもなく柔らかい表情で言われた。
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