君の世界に触れさせて
 数ヶ月前の拒絶するような視線は、もう思い出せない。


「アルバム、ありがとうございます」


 ノートを見せると、夏川先輩は照れながら笑った。


「でも、これ」


 私は最後のメッセージのページを開き、見せつける。


「これは、先輩の口から聞きたいです」


 すると、先輩は私の腕を引いて、教室を出た。


 渡り廊下まで来ると、登校してくる生徒たちの声がよく聞こえてくる。


 楽しそうな雰囲気に対して、私たちの空気感は緊張している。


 いや、緊張しているのは私だけかもしれない。


 夏川先輩は手すりに肘を置き、空を眺めている。


「あの、夏川先輩」


 勝手にその空気に耐えられなくなって、声をかける。


 先輩はゆっくりと振り向いた。


「……僕が写真を撮るのは、僕の周りの人たちの生きてきた証を残すためって、話したよね。自然な表情を撮るために、水のように、みんなの世界に溶け込む。だから、みんなの世界の名もなき登場人物になっても、構わないと思ってる」


 そう語る先輩の眼に、吸い込まれそうだ。


「でも、古賀を撮るときだけは、違うんだ。どんなときでも古賀の傍にいて、いろんな古賀を見て、そのすべてを残したい。古賀の世界に、溶け込みたくない。僕は、古賀の物語の、登場人物になりたい」
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