君の世界に触れさせて
 昨日の今日で心変わりするような表情は、していなかったのに。


 ということは、これは佐伯先輩の冗談だろうか。


「……先輩、その冗談は少しタチが悪いと思います」


 嫌悪感を抱いた私は、つい佐伯先輩を睨んでしまった。


「冗談じゃないよ。俺が写真を撮りに行くのについて行くって、栄治が言ったんだから。まあ、栄治が写真を撮るかはわからないけど」


 それを聞いて、私は夏川先輩がなにを考えているのか、わからなくなった。


 私が読み取った感情は、気のせいだったのかもしれない。


 でも、あの表情は絶対、演技ではない。


 夏川先輩のことはほとんど知らないのに、妙に自信があった。


「夏川栄治はなんで、写真撮らなくなっちゃったんですか?」


 なにも言えずにいると、咲楽が佐伯先輩に質問をした。


 変わらず呼び捨てなところは気になるけど、質問の答えのほうが気になって、私は触れなかった。


 佐伯先輩は視線を上げ、悩んでいる。


 それはそうだ。

 夏川先輩の、触れられたくないところに勝手に触れてしまっているのだから、話していいか悩むに決まっている。


「行きます」


 私は話の流れを切って、さっきの誘いの答えを言った。


 突然答えたから、佐伯先輩は一瞬なんの話をしているのかわからなくなったらしい。


「撮影会。参加させてください」


 改めて言うと、佐伯先輩はにやりと笑った。


 なにかの企みに巻き込まれたのかもしれないと思うと、誘いを受けなければよかったと後悔する。
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