君の世界に触れさせて



 ゴールデンウィーク初日、私と咲楽は電車に揺られていた。


 窓際に座る咲楽は、退屈そうに欠伸をする。


「寝不足?」
「連休がやってくると思ったら、つい夜更かししちゃった」


 咲楽は欠伸をもう一つする。


 咲楽らしい理由に、つい笑みがこぼれる。


 余程その夜更かしが楽しかったのか、咲楽は弾んだ声で一通りの報告をしてくれた。


 簡単に言えば、ネットサーフィンから抜け出せなかったらしい。


 あのブランドの化粧品が気になるだとか、可愛い服を見つけただとか、今日の髪型はやってみようって思ったものだとか。


 私の理解が届かないおしゃれの話に、私は頷くことしかできない。


「それにしても、咲楽が撮影会に参加するなんて、思わなかった」


 咲楽が満足したタイミングで、私は話を変える。


 私がどれだけ夏川先輩の写真の話をしても、興味なさそうに相槌を打つだけだったから、余計に咲楽がここにいることが不思議だった。


「だって、人が少ない海だよ? 絶対映える」


 悪いことを企むような顔をしているのに、可愛らしく見えてしまうのが、咲楽のずるいところだ。


氷野(ひの)ちゃんも写真撮るの?」


 咲楽に質問を重ねたのは、佐伯先輩だった。


「私は完全にSNS用なので。自己満ってやつです」


 佐伯先輩は咲楽の前へ、そして夏川先輩は若干気まずそうにしながら、私の前に座った。
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