君の世界に触れさせて
 でも、古賀の今の表情を残せないほうが後悔する。


「そのカメラ、少しだけ借りてもいい?」


 古賀は迷わず、僕にカメラを差し出した。


 どれだけ僕の写真を楽しみにしてくれているのか、言葉にされずとも、その表情を見ればわかる。


 数ヶ月ぶりにカメラを持ち、僕は数歩、後ろに下がる。


 太陽の光が反射している広い海と、その手前で目を輝かせている古賀。


 僕はどちらもフレームに収まるように調整し、シャッターを押す。


 すると、古賀はなにかに気付いた。


「先輩、今の、私まで撮ってません?」


 確認がしたいのか、古賀は僕に近寄ってくる。


「さあ、どうだろう」


 僕はわざとらしく、そんなことを言ってみる。


 自分が被写体になるのは嫌だったようで、古賀は両頬を空気で膨らませている。


 あまり嫌な思いはさせたくないのに、僕はもう一度、古賀を撮った。


「もう、夏川先輩! 私、写真撮られるのは苦手なんです!」


 古賀の大声を聞いて、僕は笑ってしまう。


「でもほら、綺麗に写ってるよ」


 僕がカメラを渡すと、古賀は写真を確認する。


 僕の写真を見て、少し複雑そうにしながらも、照れて笑ってくれた。


 それにつられて、僕も嬉しくなる。


 この感覚も、懐かしい。


 古賀は凄い。僕に、いろんなことを思い出させてくれる。
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