君の世界に触れさせて
 僕もハル兄もその提案に首を傾ける。


「なんで俺の部屋?」
「だって、栄治の部屋は座るところがないもの」


 図星で、返す言葉もない。

 あんな場所で、ゆっくり話すことなんてできるわけがない。


 しかしながら、どうして僕の部屋が散らかっているのを知っているのかは、今は聞かないでおこう。


「ハル兄、いい?」
「……わかった」


 ハル兄はまだ理解が追いついていない状態で、許可をしてくれた。


「手を洗ったら行くから、部屋で待ってて」


 僕は洗面所に言って手を洗うと、ハル兄の部屋に向かった。


 ノックをすると、ハル兄の返事が返ってくる。


 なんとなく、恐る恐るドアを開ける。


 同じ家でも、ハル兄の部屋なんてほとんど踏み入れることのなかった場所だから、変に緊張する。


 大学進学をきっかけに始めた一人暮らしにほとんどの荷物を持っていったようで、ハル兄の部屋には物がない。


「そんな、物珍しいものを見るような目をするなよ」


 キャスター付きの椅子に座るハル兄は、戸惑う僕を見て、穏やかに笑った。


 ハル兄は僕が変わっていたことが信じられなかったみたいだけど、僕だって、ハル兄の雰囲気が変わっていたことに驚いた。


 数ヶ月前のハル兄は、こんなに穏やかな表情を見せることは少なかったし、結べるほどまで髪を伸ばしていなかったし、今まで以上に、服がかっこよくなっている。
< 32 / 151 >

この作品をシェア

pagetop