君の世界に触れさせて
「ハル兄も、雰囲気が変わったよね。なんか、遊んでそうというか……浮気とかしてない?」


 僕はそんなことを言いながら、空の本棚に背を預けるようにして、床に座る。


 不思議と、僕は流れるように本題に触れた。


「はあ?」


 僕の言葉に、ハル兄は当然、不機嫌そうに僕を睨む。


「あのな、俺は一途なんだよ。浮気とかありえないから」


 ハル兄こそ正直に、はっきりと言った。


 でも、すぐにバツが悪そうにした。


 堂々と本心を言えるのに、こんなふうに言葉に困ってしまうのは、僕のせいだ。


 それがわかっているから、僕もハル兄から視線を逸らしてしまう。


 僕は、ハル兄のこの表情を見たくなかった。


 だけど、このままでは堂々巡りで、結局また逃げることになる。


「……知ってるよ。ハル兄が一途だってことは、僕が誰よりも知っているつもりだ。だからこそ、僕が花奈さんを好きだなんて、ありえないんだ」


 真っ直ぐにハル兄を見るけど、ハル兄は、僕の言葉が信じられていないようだった。


 それもそうだろう。


『夏川栄治は夏川遥哉の彼女、柚木花奈のことを奪おうとしている』


 こんな噂が流れても、僕は否定も肯定もしなかったのだから。
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