君の世界に触れさせて
 この場合のしない否定は、肯定と同意だった。


 一気にその噂は広まり、僕の周りから人も笑顔も減っていった。


 僕のそばに残ってくれたのは、佐伯だけ。


 僕が作り上げてきた人間関係が、こんなにも脆かったのかとショックを受けたのは、今でも覚えている。


「栄治、無理してるとかなら、はっきりと言ってほしい」


 当時の苦しさを思い出していると、ハル兄がそう言った。


 あれだけ言葉に迷っていたのが嘘みたいに、ストレートに言ってきた。


「してないよ」


 今度こそハル兄に信じてもらえるように、少しだけ強気で言う。


 ハル兄は僕がそんなふうに言うとは思っていなかったようで、数回、瞬きをする。


 その反応を見て、つい笑いながら、去年の文化祭が終わってからのことを思い返す。


 今でも、あの噂の出処はわからない。


 ただ、聞けば、きっかけは花奈さんの写真ということだった。


『あんな花奈さんの表情を撮ったのは、好きだからに違いない』


 いつ思い返しても、くだらない。


 でも、そういった話題を好む人たちからしてみれば、そんなことはなくて、僕はあっという間に好奇心の的となってしまった。


『違うよ』


 初めは否定していたけど、信じてくれた人は少なくて、何度も噂の真偽を問われた。
< 34 / 151 >

この作品をシェア

pagetop