君の世界に触れさせて
 僕が黙っていることで穏便に済むのなら、僕は進んで口を噤むことを、僕が一番わかっている。


 今回だってそれが原因だから、余計に否定できない。


「俺はその沈黙を、花奈が好きだとバレて困っているんだって思ってた」


 勘違いされているだろうとは思っていたけど、ハル兄から直接聞くと、余計に早く言えばよかったと思う。


 もう一度謝りたくなるけど、それは互いに困る空気になると思って、言わなかった。


 ハル兄は改めてため息をつくと、天井を見る。


「栄治と花奈を取り合う覚悟まで決めてた俺、バカだな」


 そんな覚悟をしていたなんて、知らなかった。


 でも、ハル兄が僕を避けるようになった理由が、少しわかった気がした。


 ハル兄は僕に怒っていたんじゃなくて、これ以上気まずくなりたくなくて、僕と距離を置いていたんだ。


「ハル兄、ごめん……ありがとう」
「いや、俺のほうこそ勝手に決めつけて、避けてごめん」


 言葉数はどちらも少なかったけど、なにを言おうとしているのか、今度こそ間違えずに受け取った。


 しかし、互いに謝って、気恥ずかしくなる。


「でも、なんで急にこの話をしようと思ったんだよ。俺の顔を見ると、すぐに逃げてたろ」


 耐えられなかったハル兄は、無理やりその空気を変えてきた。
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