君の世界に触れさせて
 内容が意地悪だけど、そういえば、さっきそれの話があると言った気がする。


 僕がハル兄とちゃんと話そうと思った理由は、一つだ。


 話そうとしたとき、ふと、古賀の笑顔を思い出す。


「写真を撮りたいって、思ったから」


 僕が言うと、ハル兄はまた信じられないものを見るような目をした。


 そして、穏やかに微笑んだ。


「栄治、好きな人ができただろ」


 予想外の発言と表情に、僕は呆気に取られる。


 ハル兄がこんなことを言うなんて、思っていなかった。


「好きな人って、なんで……」
「表情が柔らかくなってたから。今、絶対その人のこと思い出したろ?」


 この、ハル兄の意地の悪い表情を、クールなイケメンと言っていた女子たちに見せてやりたい。

 こういう表情をすると知れば、ハル兄の人気も下がって、花奈さんも安心できるだろうに。


 まあ、ハル兄は変なところで抜かりないから、この一面はきっと、誰にも見せなさそうだけど。


 なんて、そんな現実逃避をしながら、なんとか話題をそらせないだろうかと思ってしまう。


 ただ、この流れで本心を隠すのは、気が引けた。


 ハル兄の視線から逃げながら、言葉を探す。


「好きかどうかはまだよくわからないけど……少なくとも特別、だとは思ってる」
< 37 / 151 >

この作品をシェア

pagetop