君の世界に触れさせて
「じゃあ、私にカメラを教えてください」


 そんな僕のささやかな願いなんて届かなくて、古賀は紺色のデジカメを手に、言った。

 強引な申し出の割に、その表情は柔らかい。


 ただ、どうしてそんな顔をするのかなんて、気にしていられなかった。


 久しぶりにカメラを見て、手が伸びそうになる。


 それを引き止めるのは苦い思い出で、僕はカメラを見ないようにした。


「僕みたいな素人に教わるより、写真部に入って、矢崎(やさき)先生に教えてもらったほうが、上達できるよ」


 僕は古賀の膨れた頬に気付かないふりをして、立ち上がる。


 少しでも早く、この場から離れたかった。


「でも写真部には、夏川先輩はいないじゃないですか」


 だけど、僕は簡単に彼女の声に引き止められた。


“どうしてそんなに、僕にこだわるの?”


 答えが予測できるこの質問は、言わなかった。


 結果、僕は古賀を無視することとなり、そのまま教室を出た。


「今日も熱烈なアプローチだったな」


 追いかけてきたのは、古賀ではなく、友人の佐伯(さえき)


 僕は佐伯のにやけ顔と、さっきの古賀の言葉を思い返して、ため息をつく。


「……あんなに求められても困るんだよ……早々に諦めてくれたらいいんだけど」
「どうだろうな。お前に会うために、この高校に来たらしいから」


 佐伯の返答に、ため息が止まらない。
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