君の世界に触れさせて
 弾んだ声なのに、みんなが賛成しないから、佐伯先輩の表情が少しだけ落ち込んで見える。


「いいね、やろう」


 夏川先輩も柚木先輩の彼氏さんも面倒そうにしているのに、柚木先輩は乗った。


 その一言で、佐伯先輩に元気が戻ってくる。


「負けたチームは、勝ったチームにケーキ奢ってね」


 柚木先輩が悪い顔をして、そんな提案までするとは思わなかった。


「それ、花奈が食べたいだけだろ」


 隣を歩く彼氏さんがため息混じりに言うと、柚木先輩は小さく頬を膨らませた。


「じゃあ、遥哉くんはなにが食べたいの?」


 柚木先輩の質問に、彼氏さんは答えない。


 柚木先輩は答えを迫っているけど、そんなことよりも、私は柚木先輩の彼氏さんの名前を知らなかったことに気付いた。


 そういえば、お互いに自己紹介をしていない。


「お昼ご飯を奢る、でいいんじゃない?」


 名乗るべきか悩んでいると、夏川先輩が間に入って提案した。


 みんなそれに賛成のようで、その話は終わり、適当に雑談をしているうちに、私たちは目的地に到着した。


 滅多に来ない場所だからか、変に緊張する。


 私と咲楽は夏川先輩たちの背を追って、中に入った。
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