君の世界に触れさせて
 ボールを構えて、ゆっくりと歩を進め、さっきの柚木先輩の投げ方を思い出しながら投げる。


 いい感じに直進していたと思えば、最後の最後で曲がってしまって、六本倒すという中途半端な結果になってしまった。


「依澄ちゃん、いい感じ! 次で全部倒せるよ!」


 柚木先輩の大きな声援で、本当にできそうな気がしてくる。


 戻ってきたボールを持ち、深呼吸。

 そして残ったピンを目掛けて投げる。


 当たる前からわかってしまったのだけど、ボールは一本も倒さずに奥に吸い込まれた。


「惜しい、惜しい」


 席に戻ると、柚木先輩がすぐにそんな声掛けをしてくれた。


 おかげで、次も頑張ろうという気持ちになる。


 そして電光掲示板を見上げると、夏川先輩がストライクを取っていたことに気付いた。


「憎たらしいよね、夏川兄弟。遥哉くんはサラッとストライクだし、栄治くんなんか、写真を撮ることに集中してるくせに、ストライクなんだよ」


 柚木先輩は周りの音に打ち消されてしまうから、私の耳元で言った。


 夏川先輩は準備をしている佐伯先輩にスマホを向けている。


「ここは是非とも、栄治くんのかっこ悪いところを写真に残さないと、だよね」


 柚木先輩は悪い顔をしている。
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