君の世界に触れさせて
 たしかに、今の私のガターが記録に残されているとしたら、夏川先輩の失敗が残らないのは、不平等だ。


「……ですね」


 私たちがそんなやり取りをしている間に、咲楽がボールを構えた。


 佐伯先輩も同じペースで歩き、ほぼ同時に投げる。


 そして綺麗に、二人ともガターとなった。


 咲楽は振り向き、頬を膨らませる。


「大丈夫だよ、咲楽ちゃん。次いける!」


 柚木先輩の応援は虚しく、もう一度ガター。


「つまんない」


 まだ始まったばかりなのに、咲楽はすっかり拗ねてしまった。


 戻ってきて椅子に座り、爪を気にしているところを見るに、ボウリングは咲楽には合わなかったのかもしれない。


「咲楽ちゃん、ネイルしてるの?」


 柚木先輩が咲楽の手元に気付くと、咲楽は両手を背中に隠した。


 私でも、今日ネイルをするのは間違いだとわかる。


 だから、電車でそれに触れたのだけど、咲楽は聞き入れようとしなかった。


 今、また柚木先輩にも説教みたいなことを言われるのかもしれないと察したのか、咲楽は居心地悪そうにする。


「気合い入れて、それが台無しになると、つまらないよね」


 柚木先輩の同情に、咲楽は呆気にとられている。
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