君の世界に触れさせて
 私もそんな言葉が出てくるなんて思わなくて、咲楽と同じく驚いてしまう。


「そうだ、あとで私が思いっきり可愛いネイルをしてあげる。それに、これに勝てたら美味しいケーキが待ってるんだよ。だから、ちょっとだけ、頑張ってみない?」


 咲楽は小さく頷いた。


 私は拗ねてしまった咲楽の機嫌を戻すのは難しいと思っていたのに、柚木先輩はあっさりとやってのけた。


 佐伯先輩のときもそうだったけど、きっと柚木先輩は、誰かが楽しくないと感じてしまう空気に敏感なのかもしれない。


 また尊敬する場所が増え、柚木先輩が素敵な人だと知る。


 私には勝ち目がないとまで、思ってしまう。

 なんの勝負なのか、わからないけど。


 それから私たちは柚木先輩、私、咲楽の順で。

 男子チームは遥哉先輩、夏川先輩、佐伯先輩の順で投げていった。


 結果は、比べるまでもないものとなってしまった。


 原因は明らかだ。

 柚木先輩は上手だったけど、ほぼ初心者の私と咲楽が足を引っ張った。


「いやぁ、負けちゃったけど、楽しかったね」


 ボールを片付けていると、柚木先輩が悔しそうに、だけどちゃんと楽しそうに言った。


 咲楽が頷いて応える。


「花奈さんのおかげで楽しかった」


 咲楽はすっかり、柚木先輩に懐いた。
< 48 / 151 >

この作品をシェア

pagetop