君の世界に触れさせて
 さっきの励ましと、柚木先輩のオシャレ知識が、がっつりと咲楽の心を掴んだらしい。


 私も、柚木先輩とお互いに声を出しあって、ときどき失敗して、それを笑いあって。

 その時間がとても楽しかった。


 それぞれスコア表を受け取って、ボーリング場を出る。


「さて、私たちは負けたわけだけど、勝者チームはなにがお望みかな?」


 柚木先輩は後ろを歩く男性陣に声をかける。


「なにも」


 遥哉先輩は迷うことなく言った。

 夏川先輩も、佐伯先輩もなにも望んでいなさそうだ。


「そう? じゃあ、次はどうしよっか?」
「オシャレなお店に食べに行きたい」


 咲楽が率先して提案した。


 咲楽は完全に、夏川先輩たちのことを忘れているらしい。


「お昼を食べに行くの、いいね。遥哉くんたちはどうする?」


 柚木先輩が夏川先輩たちに呼びかけ、私は振り向く。


「なんでもいい」


 遥哉先輩が返すと、柚木先輩はため息をついた。


「言うと思った。じゃあ咲楽ちゃん、オススメのお店、行こうか」


 咲楽は柚木先輩の腕に引っ付き、二人は歩き始めた。


 ここまで誰かに懐く咲楽を見るのは久しぶりで、私は微笑ましくなる。
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