君の世界に触れさせて
 どうして僕なんだ。


 そう思わずにはいられなかった。


「気が向いたら、教えてやれば?」


 きっと向くことはないとわかっている顔をするなんて、人が悪い。


 すると、佐伯は僕の左肩に手を置いてきた。


「まあ、古賀ちゃんだけじゃなくて、矢崎先生も俺も、栄治(えいじ)の写真待ってるから」


 まったく嬉しくない報告をして、佐伯は僕を追い越していった。


 僕は一人でゆっくりと、昇降口に向かった。


 部活動に勤しむみんなの声を聞きながら、上履きからシューズに履き替える。


 去年はその輪に混ざっていただけに、疎外感を酷く感じてしまう。


 心のかさぶたが、少しだけ刺激される。


 この痛みにはもうしばらく、慣れそうにない。


 気を抜けば闇に引きずり込まれそうな気がして、不甲斐ないことに、僕は足早にその場から離れた。


 みんなの声が届かなくなってから、やっと息ができた気がした。


 ふと足を止めて、振り返る。


 何人もの生徒の喜びと悲しみを見守ってきた校舎は、僕を見下ろしている。


 僕の中にだって楽しい記憶はあるはずなのに、思い出が溢れる学校は、すっかり忘れてしまったように思えた。


 腹の奥から込み上げてくる寂しさに蓋をして、僕は帰路に着く。
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