君の世界に触れさせて
 そんな二人を追うように進もうとすると、横からシャッターの音がした。


「夏川先輩……勝手に写真を撮るのはやめてください」
「……ごめん」


 落ち込んだ先輩を見ると、私のほうが悪いことをしているような気分にさせられる。


 私は居心地が悪くなって、夏川先輩から逃げるように歩き出す。


「あの、もし嫌なら消してもらっていいんだけど」


 夏川先輩は遠慮気味に言いながら、スマホを見せてくれる。


 さすがに、人のスマホを操作するのは抵抗があって、受け取れなかった。


「好きに見ていいよ」


 夏川先輩が言うから、先輩のスマホを受け取り、スライドしていく。


 さっきの咲楽たちを見つめている横顔に始まり、ボウリング場での写真が次々と表示される。


 ストライクを取って喜ぶ柚木先輩。

 上手く投げられなくて拗ねる咲楽。

 夏川先輩たちに煽られて悔しそうにする佐伯先輩。


 私が憧れた世界が、そこには詰まっていた。


 笑顔だけじゃなくて、いろんな表情が溢れる、楽しそうな世界。


 たまに私の写真があって、私もその一人なのだと知る。


 夏川先輩の世界に入れてもらえたのに、それを自ら消すなんてことは、できなかった。


 一通り今日の写真を見てから夏川先輩にスマホを返すと、先輩は少し驚いたように私を見る。


「消さなくていいの?」


 “消したくないんです”


 そう答えればいいだけなのに、私は照れくさくて頷いて応えた。
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