君の世界に触れさせて
 海のときもそうだったけど、夏川先輩が撮ってくれる私が残るのは、嫌いじゃない。


 かといって、ほんの数分で言うことを変えるのはどうかと思って、私は許可するようなことを言えなかった。


「夏川先輩って、みんなが気付いていないうちに写真を撮っているんですね」


 話題に迷って言ったけど、よく考えると、盗撮だと責めたような物言いになってしまった。


 そのせいで、夏川先輩は困ったような笑顔を作った。


「僕はみんなの自然な表情を残したくて、写真を撮ってる。だから、どうしても盗撮みたいな写真が増えるんだけど……今思えば、古賀みたいに嫌だって思ってる人も、いたかもね」


 私は言葉に困った。

 夏川先輩にこんな表情をさせたかったわけじゃないのに。


「私は、栄治くんに撮られてイヤな気持ちになった人、少ないと思うよ」


 助け舟を出してくれたのは、柚木先輩だ。


 だけど、夏川先輩はそれを受け入れられないみたいだった。


「イヤだったら、栄治くんの周りが笑顔で溢れるわけないもん」


 その光景が想像できなくて、柚木先輩がウソを言っているのではないかと思った。


 だけど、佐伯先輩が頷いているから、ウソではないらしい。


「まあ、笑ってるとき以外に撮られるのは、あまりいい気分しないけど」
「ごめんって」


 柚木先輩が意地悪そうに言うと、夏川先輩はすかさず謝った。
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