君の世界に触れさせて
 視線を落としていると、先生が目の前まで近付いてきていることに気付いた。


 顔を上げると、先生は怒る様子などなく、ただ優しい雰囲気のまま、そこにいる。


「しっかりとお休みできましたか?」


 矢崎先生の声は僕の罪悪感を優しく包み込んでくれて、視界が滲む。


 声を出せば震えそうで、ただ頷いた。


「それはよかったです。そうだ、夏川君。ここに来てくれたということは、納得のいく写真を撮れるようになったと思って問題ありませんか?」
「いや……まあ……そう、かもしれません」


 急に話題が変わったことに戸惑い、そして言い切るには自信がなく、曖昧な答えになってしまった。


 先生は僕の曖昧な物言いに笑みをこぼしながら、席に戻る。


 そして、一枚の紙を持って戻ってきた。


「こんなお話が来ているのですが、夏川君もやりませんか?」


 それを受け取り、目を通す。


『クラスマッチ 撮影係について』


「お断りします」


 確認してすぐ、僕は紙を突き返した。


 矢崎先生の眉尻が下がる。


「生徒たちを撮るなら、夏川君が適任だと思ったのですが……」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……多分、みんなが僕に撮られるのを、嫌がると思うんです」
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