君の世界に触れさせて
『先輩、新しい写真、見せてください』


 無心で足を進めていたつもりなのに、古賀のさっきの言葉を思い出した。


 古賀は出会ったときから、僕がどれだけ断っても、諦めなかった。


『夏川先輩、どうして写真部にいないんですか』


 初対面で、彼女は僕に詰め寄ってきた。机に手をついて、僕に顔を近付けて。


 彼女の頬は綺麗に膨らむ。


『私、先輩の写真が見たくて、この高校に来たのに』
『僕の?』


 こう返したのが、間違いだった。


 そこから、古賀のプレゼンが始まってしまったのだ。

 あのときの輝く目は、しばらく忘れられそうにない。


 まさに、あの青空に浮かぶ太陽のように、眩しかった瞳。


「久しぶりに、撮りたいって思ったんだよなあ……」


 空を見上げて、僕はこぼした。


 自分の発言に、慌てて右手で口を塞ぐ。


 そのままあたりを見渡して、誰にも聞かれていなかったことに安堵する。


「……なにやってんだろ、僕」


 また余計なことを考えてしまわないように、イヤホンで耳を塞ぐ。


 お気に入りの音楽を流して、足を進めた。
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