君の世界に触れさせて
「ねえ、夏川。私たちはどんな気持ちで被写体になればいいの?」


 その強い視線に圧倒されてしまい、僕は答えられなかった。


 誤解だと言っても、信じてくれないような雰囲気。


 この空気感に負けたくないと思っていた僕は、どこに行ってしまったのか。


「僕はみんなの自然な表情を残したくて、写真を撮ってる」


 すると、僕ではない芯の通った声で、聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。


 振り向くと、古賀が立っていた。


 怒っているようで、切なさを隠した瞳をしながら教室に入り、僕たちの前に立つ。


「夏川先輩は、先輩たちの素敵な表情を残したくて、写真を撮っていると言っていました。それは、私よりも先輩たちのほうが知っているんじゃないんですか」


 古賀は物怖じせず言ってくれたけど、ここまで明け透けにされると、恥ずかしくなってくる。


 ただ、このままではマズイと思った。


 僕は動かなかった身体に命令し、一歩踏み出す。


「古賀、もういいから」


 そっと古賀の肩に触れると、古賀は僕の手を容赦なく振り払った。


 そして僕と向き合う。


「なにもよくないです。誰かに嫌な思いをさせたかもしれないって悩むくらい、先輩は優しい人なのに……変な誤解されたままなのは、私は嫌です」
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