君の世界に触れさせて
 古賀は本当に悔しそうな顔をしている。

 僕よりも悔しそうだ。


 僕の過去に触れる言葉は躊躇うのに、伝えなければいけないことはストレートに言うところを、僕は素敵だと思う。


 だけど、これ以上の素直な言葉は、強すぎる。言わないほうがいいに決まっている。


 篠崎さんたちに視線を移すと、古賀の思いはしっかりと届いたようで、申しわけなさそうにしている。


 ここで僕が弁明してしまうと、篠崎さんはますます立場が悪くなるだろう。


「ごめん、七瀬さん、篠崎さん。写真はまたの機会にするよ」


 そして僕は納得していない古賀の腕を引っ張って、教室を離れる。


 ある程度進むと、古賀が僕の腕を振り払った。


「夏川先輩、どうして逃げるんですか」


 古賀の強い声、まっすぐな瞳が僕に向く。


 これを向けられると、なにもしていなくても、責められているような気分になりそうだ。


 しかし負けてはいられない。


「……古賀が正しすぎるからだよ」


 僕が古賀を傷付けてしまわないように、言葉を選びつつ言う。


 すると、古賀の瞳に迷いが混ざった。


「でも、言わないと伝わらないじゃないですか」


 視線が泳ぎ、目が合わなくなる。
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