君の世界に触れさせて
 声が小さくなり、古賀は僕の言おうとすることを既に理解しているのだとわかる。


 それでも納得できない理由が、きっとあるのだろう。


「……そうだね、その通りだ。でもあれ以上言うと、篠崎さんの立場がない。正しすぎる言葉は、ときに他人を傷付けるんだよ」


 思い当たる節があるのか、もう一度僕を見た古賀は、苦しそうに視線を落とした。


 古賀が口を噤んだことで、重い沈黙が訪れる。


 あとからやって来た佐伯はその空気を読み取り、少し離れた場所で止まった。


「古賀、あの……大丈夫?」


 ずっとこの空気のままというわけにもいかず、様子を伺いながら声をかける。


 表情を見ようと屈むと、古賀がさらに下を向いてしまい、見えなかった。


 余計に心配になるけど、無理に見るものでもないと思うと、どうすればいいのかわからなくなる。


 すると、古賀が急に顔を上げた。


「大丈夫です。すみません、頭冷やしてきます」


 古賀は泣きそうな笑顔で言い、小走りで去っていった。


 その場所に、佐伯が立つ。


「古賀ちゃん、大丈夫かな」


 古賀が走っていった方を見つめながら、呟いた。


 僕は、それに答えられなかった。
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