君の世界に触れさせて
「バスケ」


 聞き間違いであってほしいと願ったのに、咲楽はゆっくり、はっきりとそう言った。


「私、それだけはイヤって……」


 私の声は震えていた。

 咲楽は気まずそうに視線を逸らす。


「わかってる。でも、依澄が話し合いに参加しなかったから……バスケ以外がいいって言っても、聞いてもらえなかった」


 そう言われてしまうと、咲楽を責められない。


 今日は踏んだり蹴ったりだ。


「嫌な思いさせてごめん、咲楽。明日くらいに自分で交渉してみるよ」


 そして私たちは教室を後にした。





「浅見さん、おはよう。あの、クラスマッチの競技のことで話があるんだけど、時間いい?」


 翌朝、登校したばかりの浅見さんに声をかける。


 出席番号が一番だからという理由でクラス委員を押し付けられた彼女は、その役割に関してきっと、前向きではない。


 だからだろう。

 私の言葉を聞いて、舌打ちでもしそうな表情をした。


「なに?」


 そして目も合わせずに、椅子に座る。


 態度だけでなく、声色からも機嫌が悪いのが伺える。


「競技を変更したいなって思って」
「古賀さんは、バスケだっけ。なにがいいの?」


 そう聞かれると、答えられない。


 ただバスケ以外がいいとしか考えていなかったから。
< 72 / 151 >

この作品をシェア

pagetop