君の世界に触れさせて
 すぐに答えられなかったから、浅見さんは大きなため息をついた。


「あのさ。特にやりたいものがないのに変えてほしいって、わがまますぎない?」


 その通りだ。

 話し合いに参加せず、決まったことに文句を言うなんて、わがまま以外のなにものでもない。


 なんだか、昨日私が先輩たちにしたことが返ってきたような気がする。


「氷野さんが、古賀さんはバスケじゃないほうがいいって言ってたけど、バスケしか余らなくて、古賀さんは補欠ってことになってる。それでもバスケが嫌なら、他の競技の人たちと交渉してみたら?」
「……わかった。ありがとう」


 私は少しでも早くその場から離れたくて、なにも解決していないのに、自分の席に戻った。


 昨日、夏川先輩がなにも解決しないままにあの場を離れたのは、これと同じだったのかもしれない。


 私が責めた先輩も、逃げたかっただろう。

 でもあそこは吹奏楽部の練習場所で逃げ場はない。


 つまり、もし夏川先輩が私を連れ出さなかったら、あの先輩は私からの一方的な攻撃に耐えるしかなかったことになる。


 私はそれに、気付けなかった。


 自分が未熟すぎて、嫌になる。


「依澄、変えてもらえた?」


 自己嫌悪に陥っていると、咲楽が声をかけてきた。
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