君の世界に触れさせて
 一瞬なんの話かと迷い、反応に遅れる。


「……いや、変えてもらってない」


 咲楽は眉を八の字にする。


「どうして? やっぱり、ダメって言われた?」


 ダメ、とは言われていない。

 ただ正論を投げつけられ、私が逃げてきただけ。


 だけど、それを知ると咲楽は浅見さんに怒鳴り込みそうで、私は笑って誤魔化す。


「自分で交渉してって言われたんだけど、私、まだ咲楽以外で仲良い人いないし、諦めようと思って。それに、咲楽のおかげで補欠らしいし?」


 明るく言ったはずなのに、咲楽はしょんぼりとしている。


「無力でごめん……」
「咲楽は悪くないって」


 そう言っても咲楽は落ち込んだままで、私は咲楽の頬を両手で挟み、無理矢理口角を上げる。


 すると、咲楽は少しだけ笑ってくれた。


 私は安心して、両手を離した。





 あれから数週間が経った。


「最高のクラスマッチ日和だ」


 教室で体操服に着替えた咲楽は、窓際に立ち、青空を見上げて言った。


 私はそんな気分にはなれないけど、つい先日中間試験が終わり、その開放感から咲楽は嬉しそう。


 すると咲楽が振り向き、私がつまらなそうにしているのがバレてしまった。


 髪型までしっかり決めて、今日を楽しもうとしている咲楽は、頬を膨らませる。
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