君の世界に触れさせて
「依澄、ちょっとここ座って」


 こういうときは刺激しないほうがいいので、大人しく言われる通りに椅子に座る。


 なにが起きるのか若干不安はあったけど、咲楽が机に櫛やゴム、ピン留めを並べたことで理解した。


 咲楽は私の髪に櫛を通す。


「花奈さんに依澄とお揃いの髪型をしたいって相談したら、前髪を三つ編みするのは?って提案してもらったんだ。運動したら前髪死ぬし、名案じゃん!と思って」


 咲楽は喋りながら、慣れた手つきで私の髪で三つ編みをしていく。


 髪が短いから、ヘアアレンジなんてできないだろうし、興味もなかったけど、こうしてやってもらっていると、わくわくしてくる。


 そして咲楽はピン留めを耳の上辺りに刺すと、数歩後ろに下がる。


「うん、上出来」


 前髪が結ばれたことで、視界が明るくなった気がする。


 どんな見た目になっているのか気になると、咲楽が手鏡を渡してくれた。


 受け取り確認すると、前髪で綺麗な三つ編みが出来上がっている。


 これは咲楽が満足そうな顔をするのも頷ける。


 ただ、咲楽とお揃いは嬉しいし、とても可愛いけど、一つだけ気になることがあった。


「咲楽、ピン留めを使わない髪型ってある?」
「あるけど、どうして?」
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