君の世界に触れさせて
 咲楽は私に顔を近付けると、左手にスマホを持って手を伸ばし、位置を調整してシャッターを押した。


 撮られるのはニガテだと言い続けてきたけど、夏川先輩に撮られることが増えたからか、私は自然に笑うことができた。


 そして、私たちは体育館シューズを持って移動する。


 すでに体育館にいる人たちが練習を始めているようで、聞き慣れたドリブルの音が聞こえてきた。


 心が踊るような、怯えているような、不思議な感覚だ。


 足の裏が地面に引っ付いてしまいそうになると、咲楽がそっと私の右手を握った。


 その眼は心配そうに私に向けられている。


「大丈夫だよ」


 無理矢理笑って言ったそれは、自分に言い聞かせているようなものだった。


 当然、無理していることは咲楽に伝わっていただろうけど、咲楽は「よかった」と流してくれた。


 体育館シューズに履き替え、体育館に入る。


 クラスマッチだからか、私の知っている熱気とは違うものが、そこにはあった。


 ドリブルをして、シュートをしようとして、外れる。


 次に聞こえてくるのは、笑い声。


 ああ、そうか。

 これは真剣勝負ではなく、お祭りなんだ。


 そう思うと、一気に心が軽くなった。
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