君の世界に触れさせて
 咲楽がドリブルをして相手ゴールを目指すと、コート内にいる全員がそれを追う。


 中学時代、数ヶ月しかバスケ部に所属していなかったにも関わらず、咲楽の動きは軽やかで、誰にも追いつかせることなく、ゴール下に辿り着く。


 咲楽が投げたボールは綺麗な放物線を描いて、ゴールに吸い込まれた。


 咲楽はチームメイトとハイタッチをし、私に向けてピースサインをする。


 ポジションはめちゃくちゃだし、作戦なんてない試合だけど、こうして応援していると、不思議と楽しくなってくる。


「氷野、いい笑顔だね」


 ふと横から声が聞こえてきて、見るとそこにはカメラを持った夏川先輩がいた。


 会うのは、夏川先輩の誕生日以来だ。


 あれからすぐにテスト期間に入ったことで話せていないから、妙に気まずさを感じてしまう。


 でもそれは私だけのようで、夏川先輩はコートにカメラを向ける。


『カメラを持ってるときの栄治が、一番輝いてるから』


 夏川先輩の横顔を見て、佐伯先輩の言葉を思い出した。


 いつか見てみたいとは思っていたけど、今の私には、この夏川先輩は眩しすぎる。


「古賀は応援?」


 夏川先輩が少しだけ視線をずらしたことで、目が合ってしまう。


 慌てて目を逸らして、試合の様子を見ながら答える。
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